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最高裁判所第一小法廷 昭和53年(オ)641号 判決 1978年10月26日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人祖父江英之の上告理由一について

原審が適法に確定したところによれば、(1) 被上告人は、本件土地及び隣地(第一審判決添付図面の実線で囲む部分中本件土地を除くその余の土地をいう。以下同じ。)の賃借権をその賃貸人である亡近藤作平の承諾を得て取得したうえ、昭和二六年ころ、隣地に分譲用の建物六戸を建築してこれを第三者に譲渡した、(2) しかし、被上告人は、亡作平及び昭和四〇年にこれを相続した上告人らに対しては、右建物の譲渡後も引き続いて、本件土地と隣地を合わせた面積に相当する坪単価をもつて計算された額の賃料を取立払の方法で一括して支払い、建物譲受人らからは、被上告人が建物敷地部分の広狭その他の事情を考慮してこれらの者と各別に約定した額の賃料の支払を受けてきたが、それらの約定賃料額の合計は、ほぼ被上告人が上告人らに支払う前記両土地分の賃料額に見合うものであつた、(3) そして、このような賃料支払関係は、昭和四六年ころ、上告人らが、被上告人が隣地について建物譲受人らから支払を受ける賃料をもつて上告人らに対する賃料の大部分をまかなつているのは不当であるとして、被上告人及び建物譲受人らに対して各別に賃料の支払をするよう求めるまで、亡作平及び上告人らから何らの異議もなく、約二〇年の間継続してきた、というのである。

右の事実によれば、分譲用建物の敷地である隣地については、建物の譲渡後も依然として被上告人が賃借権を有していてこれを建物譲受人らに転貸したものであつて、賃借地上の建物が譲渡されたにもかかわらず、賃借権の譲渡を伴わない特別の事情があつたものと解するのが相当であり、これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同二について

原審が適法に確定したところによれば、上告人らは、隣地については、建物の譲渡に伴つて賃借権も譲渡されたものとして、建物譲受人らから直接に同人らと被上告人間で約定された賃料の支払を受けること、被上告人は本件土地のみの賃借人として同土地分の賃料のみを支払うべきことを主張し、被上告人に対し、右のように賃料の支払方法を変更すべきことを求める内容証明郵便を発し、また、その旨の調停を申し立てるなどして、その主張を通そうとしたことから、被上告人は、上告人らの右のような態度からみて、従前どおり全借地についての賃料額の賃料を提供しても上告人らはその受領を拒絶するであろうことが明らかであるとして、本件土地と隣地の双方について賃料を一括して供託した、というのである。

右の事実によれば、被上告人がした賃料の供託は有効であり、本件土地の賃料について債務不履行はないというべきであるから、これと同旨の原審の判断は正当であつて、原判決に所論の違法はない。論旨は、原審とは異なる前提に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

同三について

本件土地についての賃貸借契約の解除の効力が争われているにすぎない本件では、所論の点について判断をしなかつたからといつて、原判決に所論の違法があるものということはできず、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 団籐重光 裁判官 藤崎萬里 裁判官 本山 亨 裁判官 戸田 弘 裁判官 中村治朗)

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